[敗戦][経済] 敗戦後の裏話(2)−5 飢餓とハイパーインフレの教訓

今日の飽食日本国で飢餓体験をした人は既に限られた高齢者しか居りません。 あの凄まじいハイパーインフレを知る人も同じ年代に限られるのでしょう。……昭和20年(1945)敗戦後の都会生活者にとって飢餓、食料欠乏は生存さえ脅かす重大問題でした。 当時新聞などには先行き何十万人の餓死者発生を予測する記事があり、敗戦の翌年昭和21年5月19日「食料メーデー」、「食糧危機突破人民大会」ともよばれるデモでは皇居前広場に25万人が結集し東京は騒然となります。 鈴木東民,羽仁説子、聴濤克己、鈴木茂三郎徳田球一などがリーダーでした。 デモ隊は坂下門から皇居に入り天皇に面会を要求、果たせず上奏文を宮内庁にわたし、吉田茂首相官邸にもデモ隊が殺到し座り込みます。
この騒乱を象徴し記憶された事件として、一労組員が掲げた天皇を揶揄するプラカード …『 国体はゴジされたぞ 朕はタラフク食ってるぞ ナンジ人民飢えて死ね ギョメイギョジ』……この松島某という労組員は不敬罪で起訴されます。…だが、この決起デモはマッカーサーの、「暴民デモ禁止声明」で余儀なく頓挫しましたが、一面、マッカーサーアメリカンデモクラシーの心情も垣間見せるのです。……
…敗戦直後は帝国憲法が存続しており日本国の主権者としての天皇の地位と不敬罪という独特な法律が存続していましたが、日本憲法など超越する占領軍命令はこの起訴状にも及びます。……「天皇への特別な法的保護、不敬罪は不都合」と示唆しました。…結果、国はやむおえず名誉毀損罪に変更起訴し、懲役刑の判決も最後は釈放で決着したようです。 しかし、このデモンストレイションは予期せぬ成功を収めたのです。…深刻な飢餓の実態をGHQが認識する端緒となり、旧敵国日本に対するアメリカ政府政策のターニングポイントに為り食糧援助の実施です。…早速「小麦粉8千トン余り」の援助があり、アメリカ官民の食料援助が始り余剰米軍食料や小麦粉、トウモロコシ粉、…ララ物資と呼ばれる日系人が主体しキリスト教関係者による全米からの援助物資は乳幼児、児童などの救済を果たしておりました。 ……
では昭和20年、21年の深刻な飢餓時代の東京庶民生活を活写してみます。…
…私が当時体験した人生最悪な食料とは、……苗を採る為に発芽させて、苗採取後の薩摩芋です、既に栄養分は喪失し形だけの芋を蒸かした物で、変な臭いと水っぽい繊維質だけ、本来は畑に捨てる肥やしを食べた事になります。 どの様なルートで食卓に上がったのかは知りませんでした。また小学校には欠食児童が多数発生、即ち弁当…昼食を欠食する子供達です。……
戦時中以来、食料は国の食糧管理法に基き配給という方法で消費者に分配されましたが、敗戦を境に社会を襲ったインフレーションの猛威が欠乏する食料を更に隠匿する風潮となったのです。 食管法の穀類供出義務を農家は極力忌避に走ります。……
なぜか?…昭和21〜22年のインフレ率は20倍、年10倍の物価上昇と換算して、国から受取った供出代金が一年後には1/10、…例えば百円札が十円の購買力しか無くなってしまうのです。 そこでインフレ下の必然の成行き…農家は農産品を極力物々交換!、究極の流通手段です、食料を求め農家を訪ね歩く人々を相手に実践したのでした。…
…当時、子供の私も母親が箪笥から着物を取り出しリックに入れて食料買出しに行き、芋などと交換し背負って帰宅した疲れた姿を今でも思い出します。…
しかし一方、闇商人は現金OKですが?、インフレ下の一般勤労者の購入には法外な値段でした。…彼等の手法はインフレ速度を上回る高回転、高マージン取引で結託した闇仲間が行う自転車操業です。…闇商人と云えども、のんびり金を手元に置いておけば、あっと云う間に儲けは吹っ飛んでしまうのです。 旧陸海軍関係の物資を横領隠匿した人々もこのサークルのメンバーで、軍衣料、軍手、軍靴、医薬品、軍用地下足袋、毛布、ツルハシ、シャベル、あらゆる軍需物資は農村に還流し食料として闇商人により都会に再び還流されていました。では、食管法違反に対する国の対応とは…警官隊による買出し列車急襲の取締りです。「かつぎ屋」と呼ばれた零細闇商人や消費者が農村部から列車で持ち込む食料品の摘発ですが、殆どが遺棄された持ち主不明物資として回収されます。国はもはや食管法の維持すら放棄し、窮極の社会状況下、国家は無力化したのです。…当時闇物資取締りの検事が闇食料を拒否、配給食糧に頼り餓死した事件が報道されています。……昭和25年(1950)朝鮮動乱勃発、未曾有の特需景気到来で敗戦ハイパーインフレの仇花闇商人は消え去りました。
…さて、現実に戻りまして、…現在の首相安倍晋三が戦前回帰を礼賛し、インフレ導入を至上政策として日本銀行の独立性を毀損した強引策を平然と行なう様子は何かが欠落した人物の危うさです。、…敗戦で戦費調達の膨大な戦時国債がもたらしたハイパーインフレと現在日本国の借金991兆6011億円の実状は共通面が存在するのでは?、突然、然るべき理由で国債の信用不安が惹起した時は一挙に奈落へ…、私にはなぜか安部総理は何かが、抜けた人のように見え?…総理大臣がインフレションを玩具の如く扱い活況経済の必然的結果のインフレーションを逆転した感覚で捉えている不安があります。…敗戦直後の制御不能ハイパーインフレ再現だけはお断りなのです。……
インフレ導入策を歓び、円レート安を先途と活況する一部経済人も地雷の上での狂騒でなければ良いのですが! ……先へつづく… ……前へ戻る

《敗戦後の裏話》
(5) 昭和天皇の変身
(4) 終戦に至る昭和天皇の動向
(3) 昭和天皇の試練、極東国際軍事裁判
(2) 飢餓とハイパーインフレの教訓
(1) 逆転社会の到来