[歴史] 昭和は日々に疎し(4)−7 敗戦後の生活、新円発行と銀行預金の封鎖で…

前回に引き続き戦後のハイパーインフレが国民の生活へ与えた影響や敗戦に至る莫大な戦争遂行費用(国の借金)を誰が負担したのかを追跡したいと思います。
即ち、累積した戦費や戦時国債を抱え、遂に無条件降伏の結果は陸海軍復員者、海外引揚者、軍需産業すべてに対する給付や清算支払いが一挙に発生しました。…即ち日銀引き受けと云う紙幣、日銀券が大量に印刷し流通する事になりました。 
日本国によるハイパーインフレ発生の具体的起源がこの時期で…敗戦直後の昭和21年(1946)と云えるでしょう。……昭和20年の敗戦時の物価に対し、この年のインフレ率は1.6倍程度でしたが、政府は自らが起こした必然的なハイパーインフレ到来を予知計算したのか?、GHQの許可を得て……昭和21年2月16日に突如金融緊急措置令と云う緊急勅令(帝国憲法)による紙幣の「新円切り替え」→従来紙幣の流通禁止と「預金封鎖」→第一封鎖…引き出しは一定額内、第二封鎖…凍結、の実施を始めます(詳細は後述)


日本銀行券百円旧紙幣
……リアルな社会生活が欠落し、経済に特化した話だけては当時の本質に迫れませんので、もう少し詳しく人々の生活環境を回顧してみます。…と……絶対的な食料不足飢餓、生活用品皆無のピーク時でしたから、購買力の伴わない紙幣は嫌われ物々交換と云う原始的な方法が一時流行し、都会の住民の生きる手段は着物や衣類、その他農家の好みの家財をリックに詰め込み近郊農家を尋ね廻り、さつま芋や米などと交換し飢餓に耐えていた時代です。
一般的には「竹の子生活」と呼んでいました。…食料統制で配給と云う保証制度下で食料欠配が常態化していたのです。……東京在住者の飢餓との戦いは郊外、近隣地方の農家で食料を入手し列車で帰京するのですが、この買出し列車の到着を警官隊が包囲急襲する取締りがしばしば行われ乗客が放棄した食糧包みの山が新聞報道されていた時代です。
法規による食料保証を保証しない?矛盾した現実で、自由取引禁止と云う法律の一人歩きだったのです。 更に新聞が報じた悲劇に………食料など統制物資の法律違反者訴追を職掌とする検事が自らの生活で断固、闇物資購入拒否を実践して餓死に至った有名な事件がありました。更に更に、食料飢餓での残酷な悲劇に「小平事件」があります。………当時の食料買出しは家庭の主婦や女性が主体でした。この卑劣な事件の犯人小平義雄は街に出ては、目敏く買い出し女性に声をかけて”農家を紹介する”と言葉巧みに誘い、地方近隣の雑木林などに連れ込み暴行殺害し、金品を奪う手口で16歳の少女を含む七名の命を奪い、逮捕死刑に果てております。当時の混乱社会では似たような事件化されない犯罪は多発していたと思われます。
………往時私の食べ物の記憶には主食のさつま芋、薄い粥、フスマ(小麦粉生成後のカス)、さつま芋の葉の茎、イナゴ、苗採取後の種芋などがありました。
………遂に昭和21年5月19日「米よこせメーデー」食糧メーデーに特化した集会が皇居前広場に25万人が結集し、国の主権者天皇や総理大臣に善処を求め、群集は皇居や首相官邸にデモ、集結する緊迫事態となりました。が、GHQマッカーサー司令官の占領軍命令で、デモは禁止されますが、緊迫し放置できない飢餓状況を察知したGHQは、都市部住民に緊急小麦粉6000トンを放出供与、その他米軍野戦食用缶詰、トウモロコシ粉、砂糖などが緊急援助放出されて、飢餓を食い止め、徐々に脱出出来たのです。…当時の経済破綻日本国政府の予想では約20〜30万人の餓死者予想が新聞で報道されていました。……夢の様な、真っ白な小麦粉、巨大缶詰のコンビーフや砂糖の恩恵、感動は忘れられません。以後学童給食用の小麦粉、ララ物資の粉乳等が供与され真珠湾以来の旧敵国、日本国の栄養改善が進むのです。

では本題へ、……昭和21年(1946年)2月16日に政府は突如金融緊急措置令による新円切り替えを発表、翌17日より預金封鎖を発表し一世帯500円を上限に預金引き出しを制限します。更に3月3日付けで旧紙幣の流通を禁止とし、手元の旧円は新円切り替え場所の銀行、郵便局へ預金をさせました。……預金しないタンス貯金は紙屑になるわけです!…
3月3日以後は預金引き出しは新円に切り替えられ、国民の預金は世帯毎に第一封鎖と第二封鎖に分類されるのです。…預金額上限3千円に設定された第一封鎖の口座から毎月世帯主300円、世帯員は1人各100円を限度として新紙幣の引き出しを許可しました。…各世帯の3千円以上の預金は総て第二封鎖に分類され完全に凍結されます。
……財政破綻国家の借金の清算を国民に負担させる計画は、周到に逃げ場を塞ぎ、先ず国民の「財産差し押さえ」を執行したのです。…予定行動を完了した政府の次の手口は?
……次回へ続く… 
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《昭和は日々に疎し》(7)−7 歴史は繰り返す。財産税法とナンバー制度   
(6)−7 財産税法(新円発行、預金封鎖)社会へのリアクション
(5)−7 敗戦後の 国民を裸にした…新円、預金封鎖、財産税法、   
(4)−7 敗戦後の生活、新円発行と銀行預金の封鎖で…
(3)−7 敗戦後の生活と経済
(2)−7 昭和は日々に疎し 家庭の生活
(1)−7 日本国と覚せい剤