[敗戦][天皇公家] 敗戦後の裏話(3)−5 昭和天皇の試練、極東国際軍事裁判

Hideki Tojyo "Death by hanging" ……私はスーパーヘテロダイン受信機(ラシ゛オ)に噛り付き極東国際軍事裁判の判決を聞いておりました。……
昭和23年(1948)11月12日市ケ谷旧陸軍大本営講堂(士官学校講堂)に開設された軍事法廷からのA級戦犯諸氏に対する判決の日、ウエップ裁判長の断罪宣告の放送です。……
《絞首刑(Death by hanging)判決》
東條英機 ( 軍人)、第40代内閣総理大臣
罪科…ハワイ真珠湾不法攻撃、米国軍隊と一般人殺害。
広田弘毅 (政治家)、第32代内閣総理大臣、近衛内閣外相
罪科…南京事件残虐行為不作為の責任。
板垣征四郎 ( 軍人)、陸相満州国軍政部最高顧問、関東軍参謀長
罪科…中国侵略、対米国平和の罪。
木村兵太郎 ( 軍人)、ビルマ方面軍司令官、陸軍次官
罪科…英国に対する戦争の罪)。
土肥原賢二 ( 軍人)、奉天特務機関長、第12方面軍司令官
罪科…中国侵略の罪。
武藤章 ( 軍人)、第14方面軍参謀長(フィリピン)
罪科…捕虜虐待の罪。
松井石根(軍人)、中支那方面軍司令官
罪科…南京攻略戦、捕虜及び一般人に対する国際法違反。
   


上)Photo:朝日歴史写真ライブラリー  スガモプリズンから市ケ谷極東国際軍事法廷に向かうバス内のA級戦犯諸氏  下)Photo:戦争と庶民 『東京裁判』、講談社  極東国際軍事裁判法廷(市ケ谷 現、防衛省

極東国際軍事裁判所条例による訴追された戦争犯罪とは……
(イ)平和ニ対スル罪
(ロ)通例ノ戦争犯罪
(ハ)人道ニ対スル罪
上記犯罪ノ何レカヲ犯サントスル共通ノ計画又ハ共同謀議ノ立案又ハ実行ニ参加セル指導者、組織者、教唆者及ビ共犯者ハ、斯カル計画ノ遂行上為サレタル一切ノ行為ニ付、其ノ何人ニ依リテ為サレタルトヲ問ハズ、責任ヲ有ス。
A級戦犯として起訴された28名はスガモプリズン(旧巣鴨拘置所)現、池袋サンシャインシティー敷地に収監され市ケ谷(現、防衛省)の軍事法廷に出廷、上記7名が絞首刑の判決を受けています。 
刑の執行は判決後41日目、昭和23年12月23日にスガモプリズンの処刑台で行なはれ、遺体は深夜、幌付きGMC(兵員輸送車)で横浜市西区の久保山火葬場に搬入し荼毘に付されました。 が、遺骨は遺族、関係者には渡されず米軍の手で東京湾に投棄されたとされています。…
天皇危機の本題》へ…
日本との交戦諸国、連合国軍(アメリカ合衆国を除く)英国、ソ聯、中華民国、豪州、ニュージーランド、オランダ、フランスは天皇戦争犯罪について訴追の方針を鮮明に表明しております。 
しかし、太平洋戦争を勝利に導いたアメリカ合衆国の突出したパワー、指導力を背景にしたマッカーサー司令官、アメリカ政府の政治的判断が優先し、諸国は結果としてアメリカ政府の基本占領政策としての天皇訴追免除の説得に合意しました。 特に戦争被害が甚大な 中華民国天皇の訴追を強硬に要求しますが中国共産党勢力の拡大に苦慮、アメリカ支援取り付けを考慮し説得に応じております。…
アメリカ合衆国の政治判断とは…大戦後の客観的な世界情勢は社会主義国ソ連との対峙、関連してスムーズな占領政策の実施には、…天皇を戦犯とするのは大きな支障をもたらすと判断していた。 
一方、軍事裁判法廷では当然の推移として天皇の責任問題で最も激しい議論が判事、検事により行なわれておりました。……
ウェッブ裁判長(豪州)とベルナール検事(フランス)は天皇の責任が曖昧で東京裁判自体が不平等なものとなったと指摘しております。……
ソビエト連邦代表検察官S・A・ゴルンスキーも、天皇の訴追についてキーナン首席検察官に進言した。…
代表検事アラン・ジェームス・マンスフィールド昭和天皇の訴追を強硬に主張しました。
ウェッブ裁判長…『天皇が進言に基づいて行動したとしても結局は彼がそうすることを適当と認めたからである。 それは彼の責任を制限するものではなかった。 国際法上の犯罪を犯したことに対しては立憲的君主でも許されるものではない。 また、天皇が戦争の発起人として、天皇が訴追を免れていることでこの裁判の他の被告らは全てその「共犯者」にすぎないのでその点を考慮して被告らの量刑を軽くすべきだ』……これに対する意見として
デルフィン・ジャラニラ判事は刑の宣告は寛大に過ぎ、これでは犯罪防止にも見せしめにもならないと非難し、被告人全員の死刑を主張した。
また、アメリカ合衆国の1945年6月29日(日本降伏直前)の世論調査の意見は…天皇を処刑するべきが33%、裁判にかけるべき17%、終身刑とすべき11%で61%の有罪意見があった。
極東国際軍事法廷で首席検察官ジョセフ・B・キーナン(アメリカ)が米国政府方針に基つき訴追に反対し天皇免責、不起訴が確定していました。……
天皇危機の根源は薩長明治政府の誤算》……
幕末、徳川将軍家の制度疲労立枯れの兆候を素早く察知した外様雄藩による権力奪取は明治維新へと成就します。既に尊王を唱え天皇家を盟主に据え、更に記紀神を先祖に継承した現人神と設定、神格化した天皇の統治国家を創り上げました。 明治憲法を根幹とした神国、大日本帝国は神を戴く事により不倒の国家権力が確立され、薩長天皇を利用し盾にして、その影に隠れスムーズ、実質的な権力行使システムを構築していたのです。……
次に明治23年(1890)11月29日に施行された大日本帝国憲法に規定された天皇の地位……
       第一章 天皇
第一条 大日本帝国万世一系天皇之ヲ統治ス
第二条 皇位皇室典範ノ定ムル所ニ依リ皇男子孫之ヲ継承ス
第三条 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス
第四条 天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ
第五条 天皇帝国議会ノ協賛ヲ以テ立法権ヲ行フ
第六条 天皇ハ法律ヲ裁可シ其ノ公布及執行ヲ命ス
第十一条 天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス
第十二条 天皇ハ陸海軍ノ編制及常備兵額ヲ定ム
十三条 天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ条約ヲ締結ス
上記憲法規定により総ての国家統治、外交は天皇の裁可、軍隊の行動は天皇専制統帥権のみ、また宣戦和戦も天皇の意思に属します。 ここで帝国憲法の根幹的な欺瞞は…上記の日本国統治責任を空白化した、即ち、第三条《天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス》……を憲法に明記したことに尽きます。
即ち、神の行為には瑕疵は存在しない、拠って現人神天皇の大権に対し評価、批判、責任追求等を行なってはならない。…と解釈できます。    注)瑕疵(かし)→あやまち、欠点。
拠って、大日本帝国憲法下の日本国民(臣民)は天皇の戦争責任追及は憲法規定から不可能です。…反面、天皇一人に国家権力と責務を集中させた帝国憲法の大きな欠陥が露呈されました。敗戦により連合国軍による天皇の戦争責任追及です、薩長明治政府の盲点は外国に降伏占領は想定外の事態でした。
…敗戦と同時に天皇には有史以来の最大の危機が迫っていた事になります。 大戦後のソ連社会主義国と対峙する国際情勢がなければ、帝国憲法天皇条項を客観視する限り、参戦各国の要求により訴追された可能性がありました。 
A級戦犯諸氏の如く極東国際軍事法廷天皇の姿があったかも知れません。
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《敗戦後の裏話》
(5) 昭和天皇の変身
(4) 終戦に至る昭和天皇の動向
(3) 昭和天皇の試練、極東国際軍事裁判
(2) 飢餓とハイパーインフレの教訓
(1) 逆転社会の到来