[幕末][事件事故] 水戸天狗党 (1)−6  天網恢恢 田中愿蔵始末記

前回は浮浪凶徒尊攘派水戸天狗党追討に幕府は遠州相良藩主、幕府若年寄田沼玄蕃頭を追討軍総括に任じ幕府軍一万余で水戸天狗党追討隊を編成常陸に進出します。 一方、水戸藩徳川慶篤に名代を任じられた支藩宍戸藩主松平頼徳の水戸城沈静隊「大発勢」…、とは?、宍戸藩士隊に加え水戸藩尊攘派、武田耕雲斉一派や天狗党別派?(穏健派)など途上参集し徴集農民を加えると2000以上に達し、まさに大発生→大発勢した部隊の表現でしょう。…

水戸藩那珂湊復元反射炉、寺の梵鐘など溶融し兵器を製造した。
当然、諸生派(藩校弘道館書生)指揮者市川三左衛門は藩内敵対者が加わる大発勢の水戸入城を拒絶交戦し大発勢は那珂湊に布陣し対峙します。
幕府の天狗党追討令の波及効果は水戸周辺でも友部の鯉淵村など各村落に広まり自衛農民が決起し略奪殺戮に果敢に反抗挑戦するようになります。なお…農民隊の天狗党よりの捕獲物金品は褒賞品となります。…富豪者から略奪金品を抱える天狗党は一転、村々で迎撃され敗走する憂き目にあい那珂湊の大発勢を頼り合流を試み、さらに天狗党別派田中愿蔵隊も姿を現します。 
もはや水戸城入城をめぐる攻防戦は一挙にエスカレートして那珂湊に布陣する水戸藩主名代宍戸藩主松平頼徳は、尊攘派武田耕雲斉一派か、浮浪賊徒天狗党一統か、その姿は御公儀敵対集団の様相を呈し、幕軍は那珂湊を包囲し海上にも軍艦を遊弋させます。 この期に及び大発勢宍戸藩主頼徳は事の重大さを察知、意を決し側近を連れ那珂湊を脱出、幕軍に和議申し開きに涸沼の幕軍本陣に出頭しますが、追討総括田沼玄蕃頭は一行を水戸に召喚し賊魁として捕縛しました。 
驚愕した宍戸藩は江戸水戸藩邸の徳川慶篤にすがり急遽救出を求めますが、なぜか?、慶篤は自ら指名した名代宍戸藩主松平頼徳を平然と見捨てるのです!。
宍戸藩主頼徳は出頭から9日後の元治元年(1864)10月5日幕府大目付が検視人として江戸より派遣され、切腹を申し付けられます。…36歳でした。……頼徳はなぜ終始曖昧な行動をとり…お役目上の明確な意思行動を示さなかったのか?、……

光圀の那珂湊水戸藩別邸夤賓閣跡の須磨明石産黒松
藩主を失った大発勢は幕府に従順は必至となり、残された天狗党藤田小四郎と尊攘派武田耕雲斉は計って幕軍の総攻撃から逃避し、久慈川上流の茨城大子町で落合って今後を協議する事にいたします。 
武田耕雲斉につきましては、前藩主徳川斉昭に抜擢され家老、藩執政もした水戸藩重鎮です。前君主の思想尊皇攘夷派の人ではありますが、曲りなりにも続く幕藩下、直ちに幕府公儀に反抗する水戸藩など想定外の事で、この人の挙兵は諸生派市川三左衛門との藩内内乱覇権争に水戸藩主名代として水戸城内鎮定の役、松平頼徳一行に便乗し水戸城入城を策したもので、諸生派追放を謀ったに過ぎません。…が、幕府による頼徳の切腹の申し付けの理由とは…水戸殿御名代として領内沈静のためにつかわしたのに『卻而(かえって)賊徒並ニ水戸殿脱藩之士ニ加リ公儀(幕府)御人数ヘ及敵対不届之所業ニ付切腹でした。
事態の思わぬ発展に武田耕雲斉は自らの不明を落胆しますが、最早彼に対する幕府の対応は切腹か斬首以外は考えられません。…水戸城を眼前に望む那珂湊の地で、事ここに至る宍戸藩主松平頼徳と武田耕雲斉の運命とは藤田東湖の子息小四郎指揮する賊魁攘夷過激集団「天狗党」に抱き付かれ、志と異なる結果を招来した事になりました。
一方、すでに凶徒集団田中愿蔵隊も那珂湊を脱出し北へ血路を開き逃亡、久慈川を渡河し河原子海岸に布陣し相変わらずの放火略奪を繰り返し、逃亡資金調達をします。 すでに攘夷の実践など何処へやら逃亡の為の逃亡を繰り返し。 現、日立市役所の南、浜街道の助川の小さな海防城に難なく入城を果たしたのも束の間、幕府軍の追討きびしく助川城に放火脱出、放浪し、赤沢銅山(日立鉱山の事)に現れ資金強奪に失敗、設備に放火し山中に逃げ込みました。
……鹿や猿の身でない者には深き山中の逃避行は道なき道を辿り驟雨、露滴、疾風に耐える過酷な苦しみを逃亡者に強いてきます。 田中愿蔵隊200名は久慈川上流の奥州、野州常州三国の境界八満山に逃れ観音堂に立て籠もりますが、遂に窮し隊の分散逃亡を選び下山、結末は…その殆どが捕縛壊滅します。田中愿蔵は真名畑村に逃れ、捕縛され塙(花輪)陣屋に送られ獄門逆磔に果てます。
《田中愿蔵捨札》概要
田中愿蔵と申者十月三日四日両日獄門……放火家財奪取人々を斬殺剩公家人数え敵対致候等の始末人道を失ひ大逆無道依而右罪守生に候へば上下町中引渡晒の上逆磔に可申付処打取り候もの也。  
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《水戸天狗党
(6) 栃木宿 凶行の経緯
(5) 栃木市の痕跡 太平山
(4) 水戸藩2足の草鞋で悲惨へ
(3) 自滅 飛んで火にいる夏の虫
(2) 尊王水戸藩の真実
(1) 天網恢恢 田中愿蔵始末記