[交通流通][産業][歴史] 昭和モータリゼーション(2)−8 オート三輪盛衰記

昭和2,30年代に比べ、世情モータリゼイションの変化は自動車所有の普遍化と、その成行きとして、自動車運転操作が、ごく日常的な生活になりました。
しかし、エンジン部分のメカニズムは電子化して、いつの間にか運転者にはアンタッチャブルな領域に為っております。
現代の壊れないエンジンと自動化した運転操作は機械文明の理想かも知れませんが、エンジンを調整し、メカニズムを意識した運転操作など、機械取り扱いのベーシックな動作は不用になりました。
一面的な考えかも知れませんが、ドライブはハンドルを繰り、ブレーキを踏むだけの事に単純化され移動のスピード、快適、自動化を達成しておりますが、進化の代償は機械を管理調整し能力を引き出して使いこなす楽しみは失われ、マイカーへの愛着はせいぜい車の清掃ぐらいに転化し趣味性が奪われたと云えるかも知れません。
 
                

それに引き換え我がオート三輪は現代人の求める、機械趣味を満足させるマニアックな乗り物でした。そもそも一世風靡したこの車の歳月経過を辿りますと、戦前すでにハーレーダビドソン三輪車の輸入を期に国産車も開発されてまいりましたが、荷馬車、牛車、大八車、リヤカーへのチャレンジは戦争に阻まれ、敗戦復興期に一挙に花を咲かせたのです。昭和24,5年頃にあたります。衰退期は軽三輪を含めれば昭和70年頃となりますから、半世紀にも満たない45,6年のあだ花に過ぎませんでした。なぜか?
オート三輪壊滅への経緯を辿る前に活躍したメーカーを調べてみましょう。
マツダ東洋工業
ダイハツダイハツ工業
みずしま三菱自動車水島製作所
以上3社は現在それぞれ独自の自動車メーカーとして発展しております。
くろがね…日本内燃機
ジャイアン愛知機械工業
オリエント…三井精機工業
アキツ…明和自動車工業
サンカー…日新工業
以上5社は転業、他社と合併あるいは消滅しております。
また上記各社で戦前からオート三輪開発販売を手掛けていたメーカーはダイハツマツダ、くろがね、ジャイアントの四社で他社は戦後参入組みです。
                
  

                   

それでは、なぜオート三輪が壊滅したのか、本題に入ります。
昭和24年頃の記憶から構造はバーハンドル、サドル席、単気筒、ガソリン流下式、手動ポンプオイル注入式、キャブレーターエヤーフィルターなし、キック始動、電気位置手動調整(点火時期調整)、チョーク手動調整(ガソリン気化率調整)、ブレーキロット式とガソリンエンジンの基本的簡素な構造と日本の荒廃した悪路、細道に適合した三輪自動車として高性能、安価、稼動コストの低廉が敗戦後の社会情勢にマッチして爆発的な普及しました。
売れる事により、経営資源を新車開発に注入して、より高性能化の競合はエンジン、荷台、丸ハンドル化、運転席キャビン化、四輪車基準の運転操作となり、エンジンなどはOHC、自動進角装置(イグニッション)、高馬力水冷4気筒と当時の普通四輪車を凌駕する性能を誇示するまでになります。
昭和30年代の事です。
日本社会が安定してくると、高性能化も必然の流れと云えますが、性能に見合う販売価格の高騰は廉価、ランニングコストの低廉などセールスポイントを潰し、道路整備の進捗から高速運転の不安定性の問題など三輪車構造の欠点《一輪足りない》が致命的となります。材木運搬(長尺荷物)や山間僻地での需要は確保されておりましたが、
しかし最後の致命傷は四輪メーカーの巻き返しです。 この昭和30年代はトヨタ自動車が満をじして廉価高性能の「トヨエース」を販売開始します。 この車はオート三輪並みの価格設定に、セミキャブオーバー四気筒エンジンと広い荷台の汎用トラックですが、実にトヨタ自動車販売台数の1/3を占める大ヒットとなりオート三輪ユーザーは取り込まれて行きました。
二大メーカーのオート三輪撤退はダイハツが昭和47年、マツダが昭和49年です。
この問題で一大ヒット商品の衰退の原因を解明するのも面白いのですが、一方私達の職業についても同じような問題を孕んでおり、既に淘汰された職業は多数在りますが、将来も特に技術革新に影響される専門性の高い実務型職業の危惧は多分にあるのでしょう。 ●次回はオート三輪の運転操作、保守点検のハンドリングの概要を調べましょう。 ……次回へつづく…  ……前回へ戻る



写真上、ハーレーダビドソン広告(戦前) 中、ダイハツ昭和25年製造 下、トヨエース、以上写真…懐旧のオート三輪グランプリ出版

《昭和モータリゼイション》
(8) 自動車会社浮沈の根源は、
(7) バックグラウンド道路 
(6) 自動車大国の起点とマイカー指向へ
(5) 昭和20〜27年の歩み
(4) 楽しいオート三輪 ハンドリング
(3) オート三輪は戦後のヒーロー 
(2) オート三輪盛衰記
(1) オート三輪の時代