[交通流通][歴史] 昭和モータリゼーション(4)−8 楽しいオート三輪 ハンドリング

オート三輪の話もこれで3回目になりましたが、モータリゼーション全盛の現今、先端技術の結晶になるイージードライブを楽しまれる方々も多い事でしょう。
反面、ベーシックな操作が必要な自動車、オート三輪を比較するのも面白いと思います。 私が今考えた事は、馬車、荷馬車、乗馬と馬を扱うのは、乗り物として自動車と共通しておりますが、馭者(ギヨシャ)、馬方、ジョッキーが馬の性質や馬体工学を知るように、当時はオート三輪や四輪自動車運転も基本的運転操作、エンジン保守調整のハンドリングを知らないと車を利用が困難だったのです。
馬は昔と同じですが、自動車は極限まで進化を遂げてしまいましたので、現代感覚で云えば、オート三輪は大変趣味性の高い馬並みに価値在る乗り物だったと断定いたしました。? それでは先ずは構造から運転操作、保守点検とまいります。
     
上掲の写真は昭和26年頃の三菱重工業みずしま号です。エンジン部分と運転席が良く分る写真ですが、当時の社会条件にアピールした機能が、このオート三輪から読み取れるのです。
先ず、画面から単気搭エンジン、簡素なキャブレーター、シリンダーには点火プラグとサイドバルブの二本のステムカバーが見えます。ステップ板の処に丸いコンタクトブレーカーが見えワイヤーで左ハンドルグリップの所でイグニッションレバーと繋がっており、このチエンケースはチェンジレバー下のダイナモ駆動用です。
ガソリンタンクは風防ガラス下両サイドにありキャップが見えております。左側タンクに並んでオイルタンクもあり手動圧送式のノブが付いております。
更にサドル下のトランスミッションハウジングに始動用のキックペタルが見え、風防両サイドに方向指示器が見えますが、手動レバーでワイヤーが腕木式の赤い矢印を点灯して起立させます。
右ステップ板の前方に頑丈なペタルは後両輪のブレーキにロットで連結しており、左側ステップ板の前部にはクラッチペタルがあります。
最後にハンドル右グリップにスロットルレバーとチョークレバーが二本のワイヤーでキャブレターに連結しているのが分るかと思います。
……お読み頂くのもお疲れと思いますが、かく言う私も疲れました。 このお馬さん!…いや、オート三輪は以上の部分を適切に操作しないと、まともに動いてくれないのです。悪しからず…
     
昭和25,6年のオート三輪マツダダイハツその他も基本的スペックは上記みずしまと大差はありませんでした。
……と云うことで、お馬こと、オート三輪のご機嫌を取りながら出発いたします。
《運転操作》
 ハンドル右のグリップのチョークレバーを内側に回す(ガソリンミクスチャーを濃くする)。
 ハンドル左のイグニッションレバーを内側に回す(点火電気位置を遅らせる)。
以上1、2はワイヤーでキャブレーターとコンタクトブレーカーを直接操作。
 キックペタルを1,2回キックしてミクスチャーのコンプレッションをシリンダーに送る。(ギヤ確認)
 イグニッションSWをONにしてキックペタルをキックしてエンジンを始動させる。
 サドルに座り、1,2、のレバーを正常位置に戻し、スロットルレバー(グリップ)でエンジン調整し快調なエンジン音を確認。
 クラッチを使いギヤを入れ順次シフトして適宜な速度に達します。
 積載登坂など減速シフトではダブルクラッチ操作とスロットル操作が必要になります。(シンクロメッシュ機能がない)
 停止減速などのブレーキ操作はスピードや積荷の重量に応じて「力」まかせに踏む必要が在ります(ロットブレーキ)。
 同乗者は運転者サドルの左に折りたたみ式補助椅子があり、ハンドレールに辛うじて掴まり風雨に身を任せます。
車庫に戻ってまいりました。オート三輪の運転者は、丁度仕事を終えた、馬方さんと馬の関係によく似て、保守点検が必要です。 馬方さんは馬の足回りや、病気、ストレスなど健康問題や馬体の手入れなどに留意しますが、運転者もまた、適宜点火プラグのカーボン除去、間隙の調整、コンタクトブレーカーポイント研磨、間隙調整、サスペンションのグリスアップがあります。 当時は購入時のサービスキットにもワイヤーブラシやポイントシックネスゲージ、グリスガンもセットされていたのです。 では馬の病気の対応とも云える……
オート三輪簡易故障対応法》
● ガソリン系統
タンクより流下式(フュエルポンプなし)のシンプルな構造ですからキーをOFFにしてギヤ「N」でキャブの吸入口を手のひらで塞ぎキックペタルを踏み(繰り返す)ます、手のひらにガスが噴霧されれば燃料系統は正常、ガスが来ていなければキャブの分解掃除しニードルポイントなどの詰まり等を清掃復旧します。
● 電気系統 
ギヤはニュトラル、キーをONにします。キックペタルを踏みながら(繰り返す)、シリンダーラジエットと点火プラグの頭部接続部分をドライバーで接続をしてみる。ショートして火花が出ればイグニッションは正常。出なければコンタクトブレーカー(デストルビューター)のアームポイントを研磨、ギャップ調整、コンデンサー点検などです。  
私の知っている事はこの程度でありますが、もし現代でもこのスペックで購入できれば面白いと思われますか?、如何でしょう。
皮肉な事にその後、高性能に進化したエンジン、荷台、キャビン等は四輪自動車を凌駕し高級化を遂げた時点で、オート三輪は壊滅の憂き目を見ることになりました。
(写真上、下)みずしまオート三輪 Photo by Half zero 似非日記より、有難うございます。
 ……次回へつづく… ……前回に戻る…  

《昭和モータリゼイション》
(8) 自動車会社浮沈の根源は、
(7) バックグラウンド道路 
(6) 自動車大国の起点とマイカー指向へ
(5) 昭和20〜27年の歩み
(4) 楽しいオート三輪 ハンドリング
(3) オート三輪は戦後のヒーロー 
(2) オート三輪盛衰記
(1) オート三輪の時代