[河川][事件事故] 古利根川の追跡(9)−9 利根川決壊 昭和22年カスリーン台風大洪水

前回で古利根川流路解明はどうやら隅田川を経て東京湾流入いたしましたが、残された大きな課題が存在いたします。 近年世界規模での異常気象が各地で発生しており、地球温暖化の弊害が危惧されております。私達の日本国でも福島原発事故を切っ掛けとしてCO2除去の切り札、原子力発電が挫折し化石燃料復権、さらには石炭火力発電までにコスト優先意識が復活してまいりました。アメリカ合衆国トランプ大統領を選出し、恐らく経済拡大策の根幹は工業優先、石油大量消費という結果となれば一挙に温暖化の加速の恐れがあります。トランプ選出の如き世界の良識が通用しない結果は新興国も一挙に轡を放たれた奔馬となるでしょう。………予断を許さない異常気象増大は再びカスリン台風大洪水の再現も予測され、可なり深刻なダメージ発生が予断されるのかも知れません。………



利根川土手の決壊口と利根川土手から現在の栗橋町を眺望

……江戸期以前の利根川本流跡の古利根川とは、関東平野の地形構成の象徴でもあり、この川の流域一帯の特徴は大きなお皿の如き低地帯です。水は高きより低きへと流れる簡単な物理的法則から自然乱流の古代からの現象が…即ち、関東地域の有力河川がこの一帯に集中した結果です。
即ち昭和22年のカスリーン台風による大洪水は埼玉県加須市北の利根川新川通り土手が溢水決壊して濁流は東京都江戸川区まで達した災害がありました。この濁流は自然の法則に従い低地帯に向けて集中し、流れ下ったもので冠水地帯は古利根川を中心とした一帯に拡張して行きました。……



photo…江戸遺産の利根川新川通り堤防(近代化)と土手下の民家

今後、万一の利根川溢水決壊の再現となればカスリーン台風の洪水パターンをトレースした、この地域がほぼ確実なのです。……現在までは国交省の河川管理は可なり評価される結果として往時の低湿地帯や0m地帯などで、戦前、戦後毎年の夏季洪水(大水)常習地域も解消して、海面下地帯の江東地区などの居住者でさへ大水の話題さへ忘れ去っております。……今回私が追跡した古利根川こと、葛西用水流路を可なり調べましたが、広大な稲作地帯は新興住宅地に侵食され、巨大な低湿地域帯お皿の中の居住者増大は顕著でした。特にカスリーン台風大洪水時の利根川決壊点至近の栗橋町では水深2.8mに達した記録水位が電柱に記載してあり、利根川堤防上で眺望の栗橋町市街は眼下に密集した佇まいがありました。

……では、……このお皿のような低地域帯とは…現在の荒川と利根川、江戸川に挟まれた地域で江戸時代初期には荒川(元荒川)綾瀬川入間川渡良瀬川利根川古利根川)が集中した地域です。この地域内でも地形は大宮台地や古代乱流した河川の造成した自然堤防、堆積、その他の現象で洪水とは比較的無縁の台地も多数散在はいたします。
上記以外の関東の主要河川の多摩川、鬼怒川、常陸川、那珂川は区域外の流路となります。
大洪水の原因……カスリーン台風970ミリバールが関東各地にもたらした豪雨により昭和22年9月16日埼玉県大利根町の利根川新川通り右岸の堤防約350mが溢水後決壊した。
photo…利根川新川通りカスリーン台風決壊地点のモニュメント

利根川堤防が溢水決壊破堤にいたった各地降水量は……14日昼〜15日深夜までの降水量。
秩父…610.6ミリ 箱根…538.3ミリ 本庄…432.8ミリ 前橋…391.9ミリ 足利…386.0ミリ 日光…378.8ミリ 桐生…370.0ミリ 熊谷…341.3ミリ 水戸…311.3ミリ 横浜…168.8ミリ 東京…166.8ミリ   特に秩父連山や北関東北部山岳部は大豪雨だっと云われております。………(注)異常気象現象時の各地降水量のデータが入手出来れば一般人でも河川増水予想は可能かも知れません……

photo…カスリーン台風の洪水地域地図
利根川水位…当時の決壊堤防高さ8.5m 利根川水位8.99mと云われております。
洪水地区…16日の堤防決壊後、20日に洪水流は東京都江戸川区の新川堤防に達し滞留して停まりました。………主な洪水被害地は熊谷以南の荒川流路と利根川から江戸川で囲まれた低地地域の市町村は今後も要注意区域ですが、大宮台地を含め各地域の高低差が存在し、危険度を一概に断定は出来ないと思います。但し昭和22年時と現代の居住人口の増大格差は再発時の被災人口の拡大を意味しております。
カスリーン台風利根川決壊による洪水被害……(他の洪水地域、関東北部、赤城、伊勢崎、足利、太田、桐生、藤岡、熊谷などは含めない資料。)
死者、行方不明者……60名  負傷者……1.832名 但し、関東地方全般では死者1.100名に達した。  
家屋流出.全壊……799戸 半壊……1.597戸 床上浸水……100.320戸
(関東地方の死者1.100名では渡良瀬川の氾濫により洪水で群馬県桐生市146名、栃木県足利市319名の死者行方不明者が特に顕著であった)

更に詳しく河川の実態の詳細は……《内閣府防災情報》「利根川氾濫流の流下と中川」を御覧ください。
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/kyoukunnokeishou/rep/1947-kathleenTYPHOON/pdf/9_chap5.pdf
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古利根川の追跡》 
(9) 昭和22年カスリーン台風大洪水の追跡
(8) 蛇行デルタの江戸遺構「小菅」から大川へ
(7) 謎の大河古隅田川跡と足立区、葛飾区
(6) 中川合流から古隅田川へ
(5) 大洪水デルタ地帯の河川、古利根川と中川
(4) 旧利根川跡を流れる葛西、北側用水路の実態
(3) 羽生、加須市 会の川は悪水落し
(2) 近世初期の会の川
(1) 会の川締切り以前の利根川