[河川][歴史] 古利根川の追跡(5)−8 大洪水デルタ地帯の先端技術「首都外郭放水路」

今回は流路探索の視点を一旦変えて古利根川、元荒川、中川流域地帯の重大な問題点を探って見ようと思います。………日本一の関東平野の北部山岳を水源とする大河川利根川はその昔、現在の荒川と江戸川に囲まれた御盆の様な低地帯に流れ込み自由気ままに、水路は千路に乱れ流れておりました。……この広大な一帯を肥沃な農地に換えたのが徳川家康公が江戸入府以来の治水対策にあり、利根川東遷と荒川の西遷事業が根幹だったのでしょう。 photo…地下神殿と呼ばれる巨大調圧水槽(国交省荒川下流河川事務所ページ)

しかし、その狙いは成就したものの、用水、排水路を張り巡らせたこの人工沃野の耕地も盆状の低地形からは逃れる事は出来ません。……台風など天候不順で度々繰り返すのが出水洪水でした。明治の近代化以後でも明治43年(1910)と昭和22年(1947)の「カスリーン台風」では利根川堤防、荒川堤防の決壊で大洪水は甚大な被害を住民は被りました。…可なり克明に記録が残されたカスリーン台風につきましては後日の再録と致しまして、…その後もこのデルタ地帯の大きな被害は昭和34年の伊勢湾台風、昭和41年の台風26号、昭和61年は台風10号で大きな被害が発生、その他冠水、出水程度は頻繁に発生しておりました。


(右)(国交省荒川下流河川事務所ページより)

最近の地球規模温暖化現象は過激な気象変化の兆候が現れ始めましたが過度の降水量を伴う激変気象現象の憂慮があります。………民族大移動化の日本国では総人口の3割足らずが首都圏に集中し今後も加速される傾向ですが、今回私が歩いた古利根川跡の葛西用水路周辺の田園地帯にも住宅地域が侵食し、農住逆転現象の進捗が顕著です。…万一”カスリン台風”時の利根川堤防決壊の大反乱流、川からの「逆津波」がこの地帯を襲へば予断は許されない人命被害を起こす事になるのでしょうか。………
この国には国土交通省と云う、かなり有力なお役所があります。名前の示す如く私達の生活に至近の重要官庁ですが、河川に興味を持つ私の感覚では河川治水の近代化と保安保全管理はきめ細かく信頼できるお役所なのですが、既に将来的にこの盆状低地形地帯の洪水危険性を察知しているのでしよう。


(左)外郭放水路春日部市古利根川左岸の越流堰 (右)可動取水樋水門(タワー)と地下放水路へ流入立坑上部(円形)

首都外郭放水路と云う世界トップクラスの地下貯水槽と地下トンネルの放水路を春日部市の大落し古利根川庄和町の江戸川6,3km間を国道16号の地下50mに設置して途中の倉松川、中川、幸松川、18号水路などの増水を立坑で取り込み江戸川に強制放流する仕組みの首都外郭放水路を既に4,5年前に完成しております。その設備は最先端技術を駆使し将に巨大な地下神殿と言われる話題性のある施設です。
と可なり万全を期して河川管理に取り組む国交省ですが、今後の温暖化の気象環境の激変を真剣に警告しております。……東京都北区赤羽岩淵にある国交省荒川下流河川事務所の施設「荒川知水資料館アモア」を見学して東京都心部と云えども機能が麻痺する出水洪水被害の可能性を予測警告しているのでした。  photo…春日部市内「大落し古利根川」へ古隅田川流入口……冬季、平坦な低地盤の古利根川水路は流水力は弱い。

話は盆状デルタ地帯に戻りまして、首都圏死者1,529人…昭和22年のカスリン台風被害の発端となった加須市北部新川通利根川堤防の溢水決壊時の利根川流水量を更に上回る記録を栗橋の観測点ではその後2,3回起っております。…対岸が霞むほどに見え、巨大堤防を廻らせた大河として整備された利根川ですが一旦、地球規模で起る温暖化現象の過激な気象変動は予断を許さない時期に差しかかっているのかも知れません。

首都圏外郭放水路》の詳細は……施設紹介、見学…国土交通省江戸川河川事務所http://www.ktr.mlit.go.jp/edogawa/gaikaku/intro/02shuyou/shu-03.html
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古利根川の追跡》 
(9) 昭和22年カスリーン台風大洪水の追跡
(8) 蛇行デルタの江戸遺構「小菅」から大川へ
(7) 謎の大河古隅田川跡と足立区、葛飾区
(6) 中川合流から古隅田川へ
(5) 大洪水デルタ地帯の河川、古利根川と中川
(4) 旧利根川跡を流れる葛西、北側用水路の実態
(3) 羽生、加須市 会の川は悪水落し
(2) 近世初期の会の川
(1) 会の川締切り以前の利根川