[事件事故] 鉄道大事故 (1)−2 D51蒸気機関車暴走と三河島事故
現代でも熱烈な蒸気機関車フアンは絶えることなく多数存在いたしますが、私も昭和34年頃、山陽本線の徳山や北海道小樽で踏み切りを通過するC62蒸気機関車の巨体をなぜか甘い記憶として今でも残っております。……
18世紀から19世紀に英国に興った産業革命は現代の工業社会の原点でもあり、ワットによる蒸気機関の汎用動力化は蒸気機関車の発明に発展して交通手段、物流手段として今日の世界経済発展への端緒ともなりました。
蒸気機関車発明以来、約160年後の昭和37年に起きた鉄道大惨事常磐線三河島駅構内の事故は高速鉄道時代に蒸気機関車の不適応性の顕著な事例ともいえます。まず第一番は炎熱のボイラー炉前に運転席と助手の投炭作業です。機関士は前方確認とボイラーバルブ操作、助手の石炭投炭の連携と微妙な動作が必須です。また、巨大ボイラーの脇の僅かな窓の狭視界で前方確認と、交通安全性は過酷な労働環境からも最大の欠陥でした。この事故は蒸気機関車終焉期に顕著にその欠点を露呈した象徴的事故とさえ云えます。……
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日本国有鉄道とJRの大事故は敗戦後に順次発生しております。最初の事故は昭和二十六年(1951)死者106名を出した桜木町事故、次が昭和三十七年(1962)五月、死者160名の三河島事故、三番目が翌昭和三十八年発生の鶴見多重衝突事故で161名死亡、ついでJRは平成十七年4月25日兵庫県尼崎でJR電車の大惨事が発生107名の死者を記禄しました。
しかしながら、順次事故対策に拘らず人災(ヒューマンエラー)の因果が更なる関係があります。……
……昭和37年(1962)5月3日、田端操車場を出発し貨物専用線を経由した操車場発水戸行の貨物列車D51蒸気機関車45両編成が三河島駅構内から常磐線本線下り線路に進入予定時21時30分頃に事故が発生しました。
貨物線より常磐本線下り線に進入直前のD51機関士は三河島駅の場内信号機の黄色を見落とし減速せずに進行し場内出発信号機の赤色を視認初めて非常ブレーキを作動するが停止出来ずに本線流入ポイントを通過、貨物線の安全側線に進入し終点車止めを突破して本線下り線路上にD51機関車が脱線停車します。
おりしも三河島駅を出発した下り取手行き常磐線電車が現場に進入、機関車と衝突したあおりで電車前部1、2両が脱線し本線上り線路上に停止します。この時点では被害は軽微な状態で乗客は各々ドアー非常コックを操作して三々五々線路上に脱出を始めました。
この衝突後少なくとも5,6分以上経過して定時運行の上り常磐線電車取手発上野行が現場に高速で進入し上り線路上の脱線電車と衝突して一両目は原形を留めずに大破し2、3両目は高架線路の土盛り下に転落、4両目が脱線の事態となりました。死者160名、負傷者296名の大惨事となり犠牲者は荒川三丁目浄正寺に安置され、このお寺の境内には事件後慰霊の観音像が建立されております。……
三河島駅、外側貨物専用側線 内側常磐線下り線路
……では事故の問題点を整理しますと先ず第一原因のD51機関士の注意信号の見落としです。
尾久操車場から平地走行の貨物線から常磐線高架への急勾配へ重量貨物列車の運行操作は蒸気加圧など複雑なのです。あまつさえ巨大ボイラーの後方僅かな視界の運転席、炎熱の石炭炊口など同情すべき環境ではありましたが機関士の重大な過失(ヒューマンエラー)です。 次が衝突した下り電車の乗務員と機関車機関士と助手の二次衝突を防止する努力と実行の欠落があります。
さらに因果な事は昭和二十六年発生の桜木町電車火災事故で満員乗客の脱出不可能な63型電車の三層窓構造が乗客焼死大惨事の原因となりました。この解決策が非常用ドアーコックの装備だったのですが皮肉にも三河島での結果は取手行電車から脱出した高架線路上の群衆に上野行き電車が突っ込み一瞬にして犠牲者増大の原因になってしまいました。 私は現在の三河島駅の構内線路を確かめにまいりましたが、基本的には尾久操車場からの貨物列車の常磐線への合流は昔と同じですが、電気機関車とATS、列車無線などの電子化、安全運行が出来ております。
翌年の昭和三十八年十一月には三河島事故に類似した三重衝突が発生します。 鶴見新子安間の貨物線上でEF15形電気機関車牽引の貨物列車が隣接東海道本線上に脱線、同時に横須賀線電車上下が高速で脱線現場に進入、衝突、161名死亡の大惨事になりますが原因はニ軸貨車の競合脱線で直接的な人為ミスではありませんでした。
三河島事故を教訓にATSと列車防護無線装置(連絡無線機)さらに緊急列車防護装置(緊急時に必要な総ての操作を乗務員が一挙動で実施できる)が順次設置されます。
ところが、平成十七年(2005)4月25日再び兵庫県尼崎でJR電車事故の大惨事が発生107名の死者を記禄しました。 ご承知の如くほぼ運転士の人為事故(ヒューマンエラー)の最たる事例に見えますがその裏には鉄道安全装置の三種の神器、ATS、防護無線、緊急防護装置の全く無効だった深刻事態がありました。 先ず直接事故防止が可能だったATS装置には過剰スピードを検知するシステムが加えられておりませんでした。
更に戦慄なのは多重衝突を防ぐ列車防護無線も緊急防護装置も事故による停電で車掌の操作でも使用できず二次衝突は危機一髪の事態だったのです。ところが地域住民が踏み切り設置の非常信号発光器のボタンを押し、異常を察知した走行電車運転士による列車無線で事故発生を通報し二重衝突を防いだのです。でありますが、なんと列車防護無線装置などの電源は予備電源(バッテリー)でも利用可能だったのです。 折角の装置の操作マニアルの乗務員への教育をJRは怠っていたと云われております。
この事故で唯一の光明は発生直後の近隣住民、企業の自発的な素早い救助活動から社会は深い感銘を受けました。 ……先へつづく…