[河川][歴史] 昔の荒川探索行(2)荒川西遷(瀬替え)の要 熊谷市

秩父甲武信ヶ岳を源に秩父盆地をへて長瀞などを流れ下り関東平野に達し東京湾に流出する延長173kmの荒川は江戸時代初期熊谷久下村附近で締め切り、瀬替へ(西遷事業)した経過が前回でした。……今回この事業の重要な地域熊谷について探索してみます。
山間を流れ下った荒川は関東平野に達すると緩慢となった流れは土砂堆積で扇状地を形成して堆積、溢水、新流路を繰り返し千路に乱れた流れが水害をもたらします。既に安土桃山時代には後北条氏により荒川(元荒川)の熊谷、吹上、鴻巣附近にそれぞれ築堤した話が残っており、……熊谷市の文書には領主であった鉢形城主の北条氏邦により天正年間(1580年)に旧熊谷堤は築かれたとされます。

photo…荒川熊谷堤の桜
……が、上記北条堤(旧熊谷堤)は街を水害から護る部分堤か大囲堤で、旧来の熊谷の街とは中仙道の宿場一帯で平安時代の武将熊谷直実館跡の熊谷寺(ゆうこくじ)や本陣跡が在った地域です。熊谷駅南にはこの堤の一部が熊谷堤(北条堤)遺構として残されております。 
さらに、荒川瀬替え(西遷)後の荒川左岸の下流、江戸の墨田堤までを熊谷堤と呼ばれ、或いは千住と墨田堤の間を荒川堤とも云われていますが、中世の荒川の実態は各地にそれぞれ水防の部分堤や大囲堤が存在したもので、近代の河川管理の様な連続堤防は存在していない筈です。……さて、熊谷市には桜の名所熊谷堤が二本あるのです、現在の荒川堤防の大観桜地帯と上記熊谷堤こと北条堤が万平一丁目万平公園内に約150mに渡り残された旧来からの桜の名所でもあります。


photo…万平公園内の熊谷堤(北条堤遺構)この熊谷附近から千路に乱れ分流した荒ぶる川を江戸時代初期に瀬替えで一本化したのが今の荒川の原型ですが、降雨水害時には途方も無い水量でお江戸の隅田川を襲います。
……この新荒川のもたらす洪水から、お江戸を護る手段とし構築されたのが隅田川右岸今戸から上野丘陵の三ノ輪に至る内陸に連なる日本堤(吉原土手)でした。二代将軍徳川秀忠の時代に完成しております。簡単な理論は前述の荒川左岸熊谷堤と墨田堤に対して右岸下流の江戸に日本堤を築堤し隅田川ボトルネック状態に形成し上流よりの洪水流入を制限し、上流地域一帯を遊水地としてお江戸を護る仕掛けですが、要約すれば墨田堤と日本堤で荒川洪水流量を制限し武蔵台地と大宮台地間に強制滞水させる遊水地化と云えます。日本堤(吉原土手)は1927年(昭和2年)まで存在、跡地が現在の吉原大門前の土手通りです。詳細はブログ……日本堤はお江戸の防災拠点
を御覧ください。
では、JR熊谷駅南口から約500m先に荒川の熊谷堤(荒川堤防)、また熊谷駅南口南東に万平公園の熊谷堤(北条堤)の遺構と新旧熊谷堤の存在は今回の元荒川探索行を暗示させる戸惑いがありました。……以下<google mapやearthで追跡、御参照ください>


photo…熊谷市役所ムサシトミヨ保護センター水槽群と施設この公園の南が元荒川通りで下流方向に辿ると熊谷市役所ムサシトミヨ保護センターがありこの地域が熊谷久下村で旧荒川水路を堰き止め瀬替え(西遷)した場所になります。しかし現在の荒川はその気配や遺構など一切留めておりません。瀬替え後のこの地域は扇状地の湧水で流れが出来て、これが現在の元荒川の始点、源流になります。
奇しくも、現在は熊谷の元荒川始点の清流にしか生息しない淡水魚「ムサシトミヨ」と云う絶滅危惧種は有名ですが、荒川瀬替え地点久下には熊谷市役所ムサシトミヨ保護センターがあります。この養護池の湧水(汲上げ)流水路から追跡するのが今回の元荒川探索行の原点になります。
但し、公的な一級河川「元荒川」の管理起点がセンターの僅か北の生活排水路にありますが、湧水が枯れ無残な水路です。……photo…ムサシトミヨの棲息する元荒川の源流


先ず、元荒川探索の第一歩として熊谷市久下の荒川締切り地点一帯をロケハンした結果は遥か江戸時代寛永6年(1629)の荒川流路の遺構や雰囲気が残る気配は全くなく、住宅地が続くばかりでした。それでも前回の古利根川源流追跡と比較して世界で唯一ムサシトミヨの生きる湧水清流に心が癒されました。……注)古利根川起点は埼玉用水路からの取水分流でコンクリートパネルの農業用簡易用水路でした。
……熊谷市役所ムサシトミヨ保護センター養魚池群が地図上の目印、ここを起点として今回の話が始ります。……次回へ進む
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    《昔の荒川探索行》
(11)中世の荒川本流「綾瀬川」と草加市
(10)元荒川由縁の街 越谷市
(9)古隅田川自然堤防の集大成「金山堤」
(8)中世の氾濫原、古隅田川流域の実態
(7)大地に刻まれた古隅田川自然堤防を歩く
(6)荒川を支流にした古隅田川(隅田川)
(5)岩槻市元荒川と謎の古隅田川
(4)元荒川が大河の残滓を残す流域
(3)元荒川を下る
(2)荒川西遷(瀬替へ)の要 熊谷市
(1)人工河川荒川の成立(西遷事業)