[時事][地域] 富岡製糸場(3)−3遂に横浜原三渓の所有に

官営富岡製糸場は明治5年開業以来30年を経過後の明治35年に2代目所有者三井家から横浜屈指の生糸貿易商原富太郎(三渓)に三重製糸所、名古屋製糸所、大崎製糸所と共に譲渡されます。この取引で生糸に関しては三井は貿易に専念、原合名会社(原三渓)は大製糸工場と生糸貿易を抱えて両者の立場は逆転した事になりました。
    


 三渓園 臨春閣 紀州徳川家初代頼宣紀ノ川別邸
明治新政府大隈重信渋沢栄一の思惑、輸出貿易額の80%を占める生糸産業の近代化が全国的に達成され、日本生糸がイタリア、中国を凌ぎ世界トップに成長したのが、官営富岡製糸場が原合名会社所有の時代です。
では、原合名会社の製糸事業の変遷……明治35年(1902)製糸場譲渡以来早速繭質向上の方策として改良品種の繭種を農家に供与し繭の品質向上と均質化を計る一方、工女の待遇改善、操糸機など生産機材の高度化を計り生産性向上に努めます。 ……が、1914(大正3年)の第一次世界大戦や1929(昭和4年)の世界恐慌に晒され絹糸貿易も大不況に見舞われます。…しかし、好不況はあざなえる縄の如し、昭和11年には14万7000kgの生産量を達成し、過去最高を記録しますが…経済と政治は一対の関係です、昭和6年(1931)に大日本帝国が起こした満州事変はアジア制覇の発動として国際社会から糾弾孤立、やがては第二次世界大戦太平洋戦争の端緒となりました。 更に絹糸産業壊滅のシナリオが出来上がっていたのです。……1885(明治18年)フランス人シャルドネによる人絹(人造絹糸、レーヨン)が発明され人造繊維発展の火種となり、1938年(昭和13年)にはアメリカデユポン社世紀のナイロン発明となりました。……原合名会社の原三渓は事業縮小を決断、昭和13年富岡製糸所を分離独立させ昭和14年には大口出資者片倉製糸に引取られました。

三渓園 旧燈明寺三重塔
三渓(富太郎)はどんな人……旧幕藩時代の慶応4年美濃の国佐波村の庄屋の長男として出生、昭和14年70歳没です。岐阜県の人と云えます。大隈重信の東京専門学校(現、早稲田大学)を卒業、跡見女学校の教師時代に女学生で横浜の生糸売込商店亀屋原善三郎の孫娘の屋寿子と恋愛結婚し亀屋の後継者となります。
養父原善三郎は今でいう埼玉県児玉郡渡良瀬村の出身、豪農の部類の長男で養蚕農家の仲買商で少年時代から生糸の取引に長け、幕府大老井伊直弼”の横浜開港で生糸売込人として成功し横浜屈指の資産家、横浜銀行(第2国立銀行)初代頭取、横浜商工会議所(横浜商法会議所)初代頭取、横浜市議会議長、衆議院議員など、磯子本牧景勝地に松風閣を所有し来訪した総理大臣伊藤博文命名したとあります。当時善三郎は年間所得全国20番という財力を原三渓は養世嗣として引継ぎました。
三渓が原合名会社を三井物産三菱商事などと並ぶ生糸輸出の五大商社に発展させたのは世界各地に代理店を設置、優秀な大卒者を駐在員として直輸出に改善した結果といわれます。……
横浜三渓園は現代に貴重な文化財を多数存続させた功績が残りました。実業家原三渓の一面は日本文化に対する素養と執着の発露が三渓園の完成です。この過程で建築、絵画、茶道などを通して著名人多数が三渓と親交を結んでおり、有名画人への後援も目立ちました。 昭和14年(1935)三渓園内白雲邸で70才死去。

三渓の遺構……横浜市本牧三渓園と云う広大な庭園に国の重要文化財の歴史古建築物が散在する豪勢な遺構で、横浜市の各種文化財の7割程度が存在すると云われます。重要文化財建築物の概要は下記。

三渓園重要文化財群》 

◎旧燈明寺三重の塔
聖武天皇勅願寺、京都燈明寺にあったもの。関東地方では最古の塔。康正3年(1457)建築。
◎旧燈明寺本堂
三重塔と同じ京都から移築。室町時代初期の建築。
◎旧東慶寺仏殿
縁切寺の名で知られる鎌倉東慶寺にあった禅宗様の建物。寛永11年(1634)建築。
◎臨春閣
紀州徳川家初代、頼宣が和歌山、紀の川沿いに建てた数奇屋風書院造りの別荘建築。屋内には狩野派の襖絵や数奇屋風の意匠が残る。慶安2年(1649)建築。
◎春草廬
織田信長の弟、有楽斎の作と伝わる三畳台目の茶室。九窓亭の旧称がある。
◎月華殿
徳川家康時代の京都伏見城にあった大名伺候の際の控え所の建物。慶長八年(1603)建築。
◎聴秋閣
京都二条城にあった。徳川家光、春日の局ゆかりの楼閣建築。元和九年(1623)建築。
◎旧天瑞寺寿塔覆堂
豊臣秀吉が、京都大徳寺内に母の長寿を祝って建てた寿塔の覆堂。天正十九年(1591)建築。
◎天授院
鎌倉建長寺付近の心平寺跡にあった禅宗様の地蔵堂。慶安四年(1651)建築。
◎旧矢箆原家  
岐阜県白川郷にあった江戸時代の庄屋の家を移築したもの。
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富岡製糸場
(3) 遂に横浜原三渓の所有に
(2) 経緯と群像 三井家へ払い下げ
(1) 発足と群像