[江戸][不条理] 浅草裏の寄場 (2)−2  車善七役所と吉原遊廓跡

浅草非人頭車善七さんのおはなしで、なぜ新吉原遊廓が出てくるのか?、とお考えの方も居られると思いますが、……
戸切絵図で吉原遊廓を見ますと必ず遊廓の羅生門河岸の水道尻に腰巾着の如くピッタリと車善七役所と手下の住居、預かり女囚人の溜の場所が描かれております。… 江戸時代旧地より移転させられた新吉原遊廓は湿地を埋め立て造成、四辺を”おはぐろ溝(ドブ)”で囲まれた碁盤の目状に道路が整備された人工街でしたから、昭和32年の赤線廃止後も道は存続し、今でも遊廓跡遺構は断定が可能なのです。 
但し現代吉原遊廓跡は全国屈指のソープ街となり、違和感は驚くばかりです、探訪前にブログバックナンバー「現代吉原遊廓変遷」をご参考に……http://d.hatena.ne.jp/hakyubun/20110617/1308265046
先ずは、Web現代地図で吉原遊廓近辺を参照しながらお読みください。
現代の吉原遊廓探訪の目安は国道4号線大関横町明治通りを南に三ノ輪2丁目交差点を直進、土手通り(日本堤跡遺構)に入りますと日本堤1丁目交差点これが遊廓おはぐろ溝(どぶ)の西河岸跡への道、その先に吉原大門交差点、ここから遊廓メインスツリート仲之町通りへの入り口、更に先には右手に日本堤消防署脇道がありおはぐろ溝、羅生門河岸跡へつながり、遊廓を構成する長方形の長辺二辺だけに、それぞれ河岸名が存在します。… 
で遊廓遺構の短辺は、遊廓の唯一の入り口大門は大門信号よりカーブしている五十間道が真っ直ぐに成った場所が旧大門跡、そこから西河岸と羅生門へと直角に交差するおはぐろ溝があったと想定でき、廓正面の短辺です。では廓裏の短辺は?、…大門跡仲之町通りを更に直進、遊郭時代のメイン通りです。最初の信号の交差する左右には江戸一、江戸二、次の信号千束4丁目は揚屋町、角町、さらに3番目の信号千束保健センターで交差する道の左右は京一、京二町、さて、肝心の水道尻(おはぐろ溝)は何処か?…
この信号の僅か先の右側に吉原神社があります。この神社の位置はおはぐろ溝外(遊廓外)なので、千束保健センター交差点信号と吉原神社の間に狭い路地が一本、西河岸から羅生門河岸に通じており、まさに水道尻、廓裏の短辺おはぐろ溝跡と断定できました。…
     
1…非人頭車善七住居役所。手下住居と預かり女囚溜。
2…非人寄場。無宿小屋、預かり囚人溜。
…吉原神社とは明治5年に郭内四隅の稲荷を移転、合祀したものです。遊廓裏の残された短辺、おはぐろ溝跡は断定され長方形の土地に造成された吉原遊廓区画遺構は現代でも再現可能だったのです。……なお、おはぐろ溝と呼ばれる堀は江戸時代は5間の幅があり、明治時代には1〜2間程度に狭められ、遂に大正12年関東大震災後には総てが埋め立てられた様です。
江戸時代の身分人権差別の象徴、浅草非人頭車善七の役所、小屋、溜が羅生門河岸と遊廓裏おはぐろ溝と二辺が直角に交わる接点に密着して存在していた事は江戸切絵図、文書などで確認できますが、その地は激変した現代市街地として推理が可能でした。 車善七役所江戸遺構の平成都市風景を歩き年月の乖離を実感しては如何でしょう。 
図…弾左衛門とその時代 塩見鮮一郎著 批評社》から
      
では、一統の住居地のキー、羅生門河岸の江戸時代の様子は?…
古典落語 志ん生集 飯島友治編 ちくま文庫
羅生門河岸 (解説から)
廓の東側の鉄漿溝に沿った一帯。ここは長屋式の小見世がせまい路地を隔てて並び、俗に蹴転見世(けころみせ)という、最下等の遊女屋である。名の由来は、源頼光の四天王の一人、渡辺綱羅生門で鬼の片腕を切り落としたという故事に基づき、素見(ひやかし)の客の腕を無理に引き、時には着物の袖をもぎとるところから、羅生門河岸という。
落語”お直し”から、元遊女と妓夫あがりの夫婦の噺。
……「……かみさんと相談してみなってえから帰っきたんだが、やってみようか、蹴転(けころ)を?」 
「お前さん、蹴転っての知ってんのかい?ええ?蹴転なんてのア、なまやさしいこツちゃないよ、お見世やなんかと違うんだからね。あすこはお客を蹴ツころがして入れるから蹴転ツてんだよ。俗にあれを羅生門河岸ツてんだ、ねエ。つまり、片腕引っぱりあげるから、あれ、羅生門河岸ツてん。
そんなすごいところでお前さん、商売ができるのかい?ええ?第一さア、……やっぱりお金がいるだろう?」
「若い衆は俺がやるからいいよ」
「お前さんがやるにしてもさ、遊女(おんな)はどうすんのさ」
「女はおめえがやるのさ」
「(びっくりして)なんだい?あたしアお前の女房だよ」
「女房だってさんざやったんじゃねえか」
「そりゃア……そりゃアそのときだよ。今ンなってそんなことできるかね」
「できるかねツたツて、これ、やらなかったしにゃしょうがねえじゃねえか、食えねえじゃねえか、ええ?盗人オするんじゃないよ、……」

古今亭志ん生さんの十八番の噺”お直し”のサワリでした。
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《浅草裏の寄場》(2) 車善七役所と吉原遊廓跡
(1) 冥界の狭間を歩く 非人寄場