[昭和][世情] 甦る記憶 (7)ー8 昭和珍商売 モク拾い、泣売(ナキバイ)、衛生博覧会

昭和と云う時代は日本人誰もが体験した事のないドラスティツクな歴史が展開した時代です。 無条件降伏で占領米軍MPによる戦争犯罪者捜索では東條陸軍大将(第二次大戦開戦時の首相)はピストル自殺の未遂で「生きて虜囚」となるのです。、極東軍事裁判では東條以下7人の絞首刑、16人が終身刑でした。 但し東條大将の自殺未遂事件は帝国陸軍の恥じを天下に晒しました。 その実体とは!、 昭和十六年に米英諸国に宣戦布告し戦況逼迫すると陸軍大臣東條英機は”戦陣訓”を訓令として軍人の行動規範を示しました。 その該当部分……
《戦陣訓》(昭和16年陸軍省訓令)本訓、其の二、第八、”名を惜しむ”
恥を知る者は強し。常に郷党家門の面目を思ひ、愈々奮励して其の期待に答ふべし。 『生きて虜囚の辱を受けず、死して罪禍の汚名を残すこと勿れ』。

…なんと、東條が自ら生きて虜囚の辱を受け汚名を国民の前で実践して見せたのですから。 一方、神たる天皇も忙しく、マッカーサー元帥を訪問し何やら御願い事をする始末でした。 
また、爾臣民(国民)も飢餓、インフレ、失職、住宅難で苦しみ都市部住民は米軍放出物資やララ救済物資で青息吐息の生活だったのです。
とくに、神国日本を徹底教育され固く信じた私達少年には総てが否定され一変した社会に流されるばかり、と云う訳で中学一年生の私は復員兵、予科練くずれ、引揚者、組関係者で賑い雑踏した新宿の闇市露天で繰り広げられる刺激を求めて彷徨い歩きます。珍商売はその時見たものが多く記憶に残っていました。   写真 アメリカ大使館にマッカーサー司令官を訪問した昭和天皇

モク拾い(タバコ吸殻拾い)と巻直しタバコ売り…
敗戦後2、3年は先端に針を付けた棒と布袋を持ち、捨てられたタバコの吸殻を刺して拾い歩く商売。集めた吸殻はほぐして巻き直し露天で一本から売っていた。主にモク拾いは米軍GIが集まる銀座など都心部で拾う。 巻紙やタバコ巻き機など用具も当時は売っていました。
栄養シチュー屋…主に露天などの飲食店。 現在の新宿西口小田急デパートから青梅街道ガードまでの線路際が露天飲食店の一大ゾーンを形成していた。シチューの材料は米軍キャンプの食堂残飯を清掃業者が引き取り、炊き直してシチューに仕立てたものです。 当時の飢餓社会では肉類がふんだんに入った廉価な食べ物として人気がありましたが、残飯の宿命で異物の混入が話題になっていた。…ナイフホークはまだしも、タバコ吸殻、空パッケージ、ルーデサックの類まで。……人気作家の野坂昭如さんは栄養シチュウで精をつけ、二丁目や花園に出向いたそうです!……
衛生博覧会…空き地のテント張りとかビル空室で開催有料。今で云う家庭の医学程度の能書きや標本などを並べて見せるだけ。 なぜ人が集まるのか?、特別室として性病科、婦人科の展示があり、実物大の精巧に出来た性器のロウ細工標本が見せ物で各種?、並べてあった。 この入口には番人がいて、子供は追い返される。 たまたま銀座のビル会場で潜り込み目撃し、その後は衛生博覧会を卒業しました。
泣き売(ナキバイ)…新宿駅東口の旧駅舎内の改札、出札、待合室のあるコンコースによく見掛けた。 改札脇の駅長事務室がRTO(米軍運輸事務所)だった頃の話。 一人の若者が人の行き交う場所に風呂敷包みを抱えてしゃがみこんでいる。と、一人のおっさんが現れ大声で ”どうしたんだお前、具合でも悪いのか” と声を掛ける。 ”田舎に帰りたいのですが切符が買えないのです” ”ふぅん…可愛想だな〜金が無いのか?” ”はい、コーバ(工場)が火事で焼け、給料が貰えないのです。” ”そうか、ところでお前、その風呂敷包みはなんだ” ”はい、コーバの焼け跡から拾ってきた万年筆です” ”え…お前万年筆作っていたのか、一寸見せてみろ” と風呂敷包みを開かせると、焼け跡の灰にまみれたセロハン袋入りの万年筆が沢山出てくる。…”うん…これは、いい品物だな、よし、俺が買ってやる、3本150円でどうだ、いいな” ”はい”… ”そうだ!、他の人にも買ってもらって、田舎に帰えったらどうだ!え…” ”ほらほら、駄目じゃねえかよ、おめえも頭を下げて皆さんにお願げえしろい” と若者の頭をこずく。 ……
と、ガセ万年筆を野次馬も買わされる破目になります。
でん助賭博…これも敗戦後の新宿の話ですが、当時は伊勢丹通りには露天が出て何時も縁日のように雑踏していました。 日が落ち闇が迫ると三越裏の通りに、何処からとも無く簡単な台とアセチレンガス灯を持参した人が集まります。 それぞれ台の上には東西南北とか、東京、名古屋、大阪、京都などと円形を4等分にし中心に回転軸がありプロペラの様な先端から糸に鉄針を結んでたらしてあります。客は好きなところに賭けプロペラを回転させるのですが、台の下から磁石で針は自由に操作できるとか…、また、…10本入りピースの箱、三個を台の上で起用に左右に動かして印の付いた物を当てさせる。 …ガラスシャーレに紙を丸めて沢山入れてあり、新たに印を付けた紙を丸めて、客の前でシャーレに落とす、それを客がピンセットで拾い的中すれば当り。 …トランプ一枚を皆に見せ、これを混ぜてキル様子を見せながら台の上に並べ当てさせる。など色々ありますが、巧妙に仕組んだイカサマでした。
昔の大道賭博は『はった、はった、はって悪りぃはオヤジの頭、貼らなきゃ喰えねえ提灯屋』 などと騒いだものだそうですが、当時は見張りを立てて、こっそりやっていました。……
   …… 先へつづく… ……前へ戻る
 
《甦る記憶》(8) 昭和珍商売 世投げ屋、偽傷痍軍人、犬殺し
(7) 昭和珍商売 モク拾い、泣売(ナキバイ)、衛生博覧会
(6) 昭和仕事 俥夫、ボテフリ、カラス部隊
(5) 昭和の仕事 エンヤコラ、車力、馬方、汲み取り屋
(4) 昭和の消えた生活 仕事
(3) 街から消えた商売
(2) 日本国とアメリカCIAの関係
(1) 女衒(ぜげん)、華族、貴族院