[江戸] 明治と維新の時代(2)−6 お仕置き御用という仕事 浅草弾左衛門

私達が楽しんでいる映画、TVなどの時代劇では日常生活の彼方、歴史の話として血塗れた戦い、切腹、磔、斬首、のシーンも何気なく見過ごしているのが普通かも知れません。 
そこで実際の歴史、明治維新までの話しとして、浅草弾左衛門新町役所の職掌の一端、現代の司法、警察業務に当たる仕事を挙げ、更に仕事の内容、鈴が森、小塚原の刑場に係る実務を覗いて見ようかと思います。
    
現在地移転前、旧小塚原刑場の首切り地蔵
○「お仕置き御用」…有罪犯の処刑
○「お尋者の探索」…犯罪者の捜査
○「両町奉行と溜め御用」…裁判所、刑務所の要員派遣
○「両町奉行と牢屋敷の火災消火」…裁判所、刑務所の消防業務
○「御符内無宿取締り」…国許逃亡者(無宿人)の取締まり
などがあり、時代劇で見掛ける磔、斬首の処刑シーンは、「お仕置き御用」と云われる新町役所の専門職掌により行われるのです。
この仕事は長吏(穢多身分)頭の矢野氏(弾左衛門)の苗字から「矢の者(矢野の者)」と云われた新町役所の長吏と手下として非人身分者が実務を行います。
なお、現代と比較して暗黒の時代、奉行所の断罪の基準など気になりますが、寛保2年(1742)8代将軍吉宗の時に「公事方御定書制定」があり、犯罪の量刑の基準が出来ており、現在の裁判が判例基準に基づく様に、例えば主人殺し、手負いさせた者は…
”御定書第六十九条” 人殺し並びに疵付けし等御仕置の事。
一、主殺し二日晒し、一日引廻し鋸引の上磔、同じく手負と為し候もの晒の上、磔。 
また姦淫、男女心中なども江戸時代は重罪でした。
…心中法度”の要旨は『男女申合にて相果候者之儀で始り、心中者は埋葬を許さず取り捨て。未遂の場合、双方共に生残れば三日間晒しの上、人別帳から抹消する。一方が生残った場合、下手人として処刑』。
姦通罪などの概要、『僧侶の姦通は獄門、その他姦通罪、両者死罪又は獄門』。 しかしこの罪は江戸時代と云えども親告罪であり、奉行所としても正確な判断が難しいので成立は少なかったと云われます。 その他強盗、放火は勿論の事、窃盗は三回又は十両以上は総て死罪と厳しい断罪が執行されていた様です。
刑の執行に係る職掌「お仕置き御用」の実体を記述した文書がありますので、ピックアップしてみました。 但しお心が繊細なお方には向きませんのでパスして下さい。……
徳川幕府磔刑を目撃せし者は、恐らくは今日存在せざらん。よってこれらの事蹟を研究せらるる史家の参考のために、云々で始る元仙台藩士の慶応三年(明治元年 1868)の記述、鈴が森刑場磔刑の状況です。
史料徳川幕府の制度 小野 清 校注 高柳金芳 人物往来社 
……罪人を引き出して検使の前に跪座(きざ)せしむれば、四十歳位の検使は、懐中より奉書紙に認めたる捨札同文の断獄宣言書を出して、罪人に読み聞かしむ。この検使は、因獄主管者石出帯刀なりしや否や、当時聞くところなし。
かかる間に、他の非人は、叢(くさむら)の中に倒し置きたる磔柱を刑場の中央に引き出し、罪人に覆面し、大の字状に縛り終わり、罪人を海岸(東方)に向わしめてこれを樹つ。 槍を取る者(即ち突手)二人、荒縄の襷を十文字に掛けて、罪人の左右に分かれ、各々槍の穂より三尺ばかり下の所を荒縄にて縛す。蓋し血の手元に流れ来るを防ぎ止むる用意なり。
一人の非人は磔柱の下に水を入れたる桶を据え、雑巾様の襤褸(ぼろ)切れを持ちて蹲(うずくまる)。これ罪人を突きたる槍に付着せる血を一度ごとに拭い去る者なり。
かくの如く準備なり、槍を持ちたる突き手両人、罪人の右方の者は西向きに、左方の者は東向きに、各々位置を定めて、まず左右両方より、槍を出して、罪人の胸の前にて、叉字状に合して、ドンと胸を打つ。斯くして左方の者、まず「アーリャー、リャー」と掛け声を発しながら、罪人の横腹より右の肩へ通れとばかりに突き込む。その声音の無情なる、挙動の劣悪なる、何に譬(たとえ)ん様もなし。
さてその槍を引き抜きて、磔柱下にて血を拭わしむる間に、右方の者、また「アーリャー、リャー」と掛け声を発しながら横腹より左の肩へ通れとばかりに突き込む。その槍を引けば、左方の者また替りて突く。
かくの如く交(か)わる交わる突くこと、左右各々八本ずつ、合わせて十六本突き終りて、十七本目に、別に一人の非人をして、後ろの方より、熊手様のものを以て、髷(たぶさ、もとどり)に引っ掛けて首を仰向かしめて、突手の一人真正面より咽喉を突きて止めを刺す
。……

by-たむ、たむページ-matsuyama-U.AC.jp
その他斬首の状況は伝聞では明治12年”高橋お伝”の処刑を最後に廃止されますが、最後の首斬朝右衛門の八世”吉亮による明治有名人仕置きの話など、『明治百話』(上)岩波文庫 篠田鉱造著に記載があります。……次へつづく
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《明治と維新の時代》
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(5) 疑惑の女官達(孝明天皇急死事件)
(4) 脆弱な歴史観《孝明天皇急死事件》
(3) 薩長新政府の文化破壊
(2) お仕置き御用という仕事 浅草弾左衛門
(1) 浅草弾左衛門